マインドセット

「懐かしい未来」インドラダックに訪れたグローバリズムの波【書評】

こんにちは、しおや(Shioyan_jp)です。

 

あなたはインドのラダックという土地をご存知ですか?

インド北部の奥地にある、美しくも厳しい自然に囲まれた地方です。

懐かしい未来 ラダックから学ぶ」という本を読んで、ぼくはラダックについて初めて知りました。

「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」では、ラダックに訪れたグローバリズムの危機について西洋人の視点から記録されています。

「発展」とはなにか、幸せとはなにか、多くの気づきがあったので紹介したいと思います。

書籍「懐かしい未来」でラダックが教えてくれる幸せのかたち

 

言語学者である著者が、1975年からインド北部のラダックという地域に長期滞在する中で、グローバリズムの到来が現地にどのような影響を与えたのか、西洋側の人間がラダックの内側から見た視点で描き出した記録です。

本書は三部構成となっており、第一部では過酷な環境の中で満ち足りた生活をしていた人々の生活様式と精神性、第二部はグローバリズムの到来により起きた現地の変化、第三部ではラダックの実例から得た教訓について書かれています。

ちなみにこの本は1991年の初版後、世界的に話題となり日本を含む40ヶ国以上で翻訳されています。

地上の楽園だった、かつてのラダック

見渡す限りの茶色の土地。

標高3,000メートル以上の高地にあるラダックは、資源に乏しく、夏は灼熱の太陽に晒され冬は氷点下40度にもなるという過酷な環境下にあります。

人々はこの厳しい土地で生きていく知恵、自然と共存するための知識を持っています。

 

この本の著者ヘレナさんは、ラダック語の研究の為の1975年の初訪問後、ラダック語をマスターし現地の人々と交流を深めていきます。

長期的に滞在する中で、西洋的な視点から見ると「遅れている」このラダックという土地で、人々が豊かな精神性を持ち、満ち足りた「幸せ」を感じながら生活しているということを理解し感銘を受けました。

 

ラダックには自然と、他者と共生し、持続可能な文化が存在していました。

電気も通らないその地で、自分たちを「貧しい」とか「遅れている」という風に考える人はいなかったのです。

 

本書で描かれているラダックの原風景は幻想的です。

住民たち・動物たち・自然がひとつの共同体としてお互いに支えあいながら暮らしています。

パーマカルチャーのひとつの完成形ではないでしょうか。

アニメみたいな原風景が頭に浮かびました。

グローバリズムの到来と、変容するラダック

1974年、インド政府が観光目的でラダックを解放してから、現地の生活様式を無視した西洋式の開発が行われ、もともとあった文化は次第に「遅れた」文化と見なされるようになっていきます。

 

生活の質を「向上」させるためにはお金が必要になり、お金を稼ぐために男は都市部に出稼ぎに行き、家族との時間は減り、以前はなかった競争が生まれてきました。

環境は破壊され、水は汚れ今までになかった病気が生まれ、病院に通うために労働する悪循環が生まれます。

人々は次第に自分たちは「貧乏で遅れている」と感じるようになります。

資源がなくても人々は幸せを感じられていたのに、発展するにつれ内面からわき上がる幸せを感じられなくなっていきました。

ラダックの破壊を防ぐために

現地の環境・文化を破壊して西洋的な基準で画一化しようとする開発のやり方について、著者は痛烈に批判しています。

一方的な押し付け、破壊で美しい文化が失われていくのが見ていられなかったんでしょうね。

開発によって生活が便利になる部分もあるので、開発を妨げようとするのは著者のエゴだという意見もあります。

著者のヘレナさんも部外者である自分が現地の発展に介入することには葛藤があったようです。

でも、生活文化が失われてから初めて、昔の生活の価値に気づいても手遅れなので…。

著者は発展の良い面・悪い面を現地の方々に正確に伝えた上で、判断してもらえるよう著者は行動していきました。

ラダックに影響を与えたヘレナ・ノーバッグ=ホッジの活動

著者ヘレナさんは持続可能な社会を実現するためにはどうしたらよいかを探り、国際的に問題提起をする活動を行なっています。

 

ラダックではLEDeGという持続可能な発展方法を探るNGOが立ち上がり、現地で大きな影響力を持つようになりました。

太陽熱を活かしたエコ装置などが多数開発され、全てのプロジェクトに住民自身も参加してもらうようにしています。

著者の活動によって、ラダックは何も知らないままグローバリズムに一方的に搾取されることは一応は避けられたのかな?という印象でした。

ヘレナさんの著書に関して

本書「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」はラダックが開発により変わっていく様子を詳細に記録した良書でした。

ラダックという地でどのような生活が営まれていたか気になる方、開発が現地に与える影響を考えたい方にはぜひオススメしたいです。

 

ただ、記録的な叙述の連続や、著者の考えが繰り返される部分ですこし眠くなってしまうところはありました。(すみません)

ヘレナさんの考えについて知るのであれば、下の本の方がインタビュー形式になっていて軽く読みやすかったです。

 

 

ラダックが教えてくれる多様性を認めた発展とローカリズムの重要性

ラダックの例から、学べることは多いです。

 

例えば物質的な発展は幸せには直結しないこと。

物を買うお金を得るために仕事をして、時間を短縮する道具を手に入れたはずなのに家で過ごせる時間は減って幸せを感じられなくなる。

何のための仕事なのか、何のためのお金なのかわからなくなってきますね。

現代社会でも通じる話です。

昔のラダックの人たちは仕事と生活がイコールだから、いちいち仕事が生活から分離していないのが印象的でした。

 

あとは多様性の話。

地域の多様性を認めながら発展していくっていうのに関連して、西洋式の教育をやっても現地での生活には何の役にも立たないという話があって確かにと思いました。

土着の生活知識に関する授業やワークショップが多い方が役に立ちそう。

発展の仕方は一つではないことを示してくれました。

近代化の便利なところばかり見ずに、同時にその弊害も見れるようにしたいです。

 

ローカリゼーションは今後のキーワードですね。

生産者と消費者のお互いの顔が見える小さい経済は満足度が高いと最近よく言われています。

近くの人から食べ物を買ってお互い喜び合えたら幸せだし、遠くの誰かに単一農業をさせて搾取したり、生産拠点を人件費の安い国に移して環境汚染を引き受けてもらうようなこともしたくないです。

それが現地の発展に必要なんだという人も出てきそうですが、本当にそうなのかなあ?と考えさせられました。

 

問題が複雑で巨大なので簡単に答えは見つかりませんが、本書は問題を考えるきっかけになると思います。

あと、今のラダックがどんな様子なのか、いつか遊びに行ってみたいな〜って感じです。

おまけ : 「しあわせの経済」世界フォーラム

2017年11月に東京で本書の著者ヘレナさんの主催で「しあわせの経済」世界フォーラムが開かれました。

ローカリゼーション運動や環境運動をしている世界のリーダーたちが集まっていましたよ。

サティシュ・クマールさんのお話でエネルギーをもらえました!

 

 

しあわせの経済」世界フォーラム2017 開催終了

開催期間 : 2017年11月11〜12日

<1日目基本情報>
会場:日本教育会館3F・一ツ橋ホール
時間:10:30~19:00(開場10:00)
入場料:前売一般3000円、学生1500円
当日一般4000円、学生2000円
<2日目基本情報>
会場:明治学院大学白金キャンパス・パレットゾーン他
分科会・ワークショップ 9:30~17:30(開場9:00)
ブース・マルシェ 10:00~16:30(開場9:30)
入場料:無料