小説の話

モンスター的主人公に対する共感と文章力への感動【『コンビニ人間』書評】

みなさん、あけましておめでとうございます!

しおや(Shioyan_jp)です。新年早々ブログを書いています。

年末年始の休暇中に、今更ながら村田沙耶香さんの『コンビニ人間』を読みました。

個人的にかなり好みの作品だったので、どこが面白かったのか考えてみます。

この記事の書評スタンスは下記です。

  • ネタバレあり。未読の人はこの記事は読まない方がいいかもしれません。
  • どこが面白かったか、整理します。
  • 自分が小説を書くために、参考にできる部分を考えてみます。

『コンビニ人間』の中で面白かった点、3つ

①機械的かつモンスター的な主人公と、それに対する共感

主人公は一見平凡な30代女性。

言葉を言葉通りにしか受け取れず、感情が欠落していて、人間心理が読み取れない。

男性経験なし、気の置ける友人は0、機械的で論理的なモンスターです。

キャラが立っていて個性的なのでインパクトがあるし、クレイジーっぷりが逆にユーモラスな場面も。

そんな独特な主人公ですが、共感できるポイントは非常に多かったです。

 

世間の「あちら側」にいる人たちは「普通はこうあるべき」という固定観念にとらわれていて、他人(主人公)の私情に土足で踏み込み、「こうあるべき」という常識から外れた人を頭のおかしい異物として扱ってきます。実際多いですよね、こういう人たち。

ぼくも社会不適合タイプなので非常に共感します。

「頭がおかしいのはそっちだろ。」と。

主人公は一般的なコミュニケーションは異常に下手ですが、頭も良いし論理的です。

そんな主人公が「あちら側」にいる普通ぶった人たちに対して怯まないで堂々としているので、社会に違和感を感じている人間としては自分が肯定されたような、うんうんと肯きたくなるような気分になりました。

②村田沙耶香さんの文章力への感動

小説の冒頭部分。

コンビニエンスストアは、音で満ちている。客が入ってくるチャイムの音に、店内を流れる有線放送で新商品を宣伝するアイドルの声。店員の掛け声に、バーコードをスキャンする音。かごに物を入れる音、パンの袋が握られる音に、店内を歩き回るヒールの音。全てが混ざり合い、「コンビニの音」になって、私の鼓膜にずっと触れている。

(『コンビニ人間』村田沙耶香・文藝春秋)

痺れました。短文の心地よいリズムとコンビニの音が頭に響いてきます。

コンビニの描写が精緻で具体的で驚きました。実際にコンビニで働いている村田さんの経験と文章力が相まってこそできる描写だと思います。

 

小説は短く、長文は少なくリズムがいいです。感傷的な描写はないのに、感じさせてくれる部分はいろいろあります。

ぼくはレイモンド・カーヴァーのようなミニマルな文体が好みなのですが、村田さんの文体も心地よかったです。

主人公のモンスター性を象徴するエピソードも印象的。

③何気ない日常の中で主人公の異質性が顕になる展開

主人公のモンスター性については幼い頃のエピソード二つで表現されます。

大人になり、普通の人たちの表情や喋り方の真似ができるようになり、読者としては一安心。

「ああ、とりあえず適応できるようになったのね。」と思うのですが。

後半部分で、主人公のモンスター性が再度顕在化してきます。

というか結局妹に喋り方が変とか指摘されているし、「こちら側」の人間だと思っていたコンビニの仲間たちもみんな「あちら側」の人間で飲み会にも呼ばれてないし、ちょっとかわいそうだけど笑いました。全然適応できてなかった。うまく適応できていない白羽さんですら「あちら側」の感覚は理解できるのに、主人公は理解すらできません。

そしてこの辺の描写の上手さが衝撃的でした。

派手などんでん返しではないですが、「コンビニなら適応できている」という世界観が一気に崩壊して、主人公と世界が乖離します。

良い展開。そしてあの堂々としたラストも好きです。

『コンビニ人間』を読んで自分に活かすこと

ここからは自分用のメモです。

自分も面白い話が書けるようになりたいなぁ。

 

  • 人物像を描写するために具体的・印象的なエピソードを用意
  • 文章はリズムを意識。登場人物の会話に関する文体は自然な話言葉にする方が自分好み?
  • 日常の描写力をあげること。具体的なモチーフのストックを増やすこと。日常を文章でスケッチしたり、違和感を感じた出来事などもメモ
  • 対比の使用。モチーフの繰り返しの使用。(「世界」「音」など)また、対比に使っていたものの位置関係の変化による反転(「こちら側」の人が実は「あちら側」)

 

この記事みたいな感じで、小説を読んだら自分なりの感想をまとめていこうかと思っています。